クリエイティブディレクター・中前省吾が伝える、
凡人がスペシャリティを出す方法

中前省吾1

エイベックス・グループが、新人アーティストを発掘・育成・開発することを目的に設立したエイベックス・アーティストアカデミー。 その中で、「エイベックスやエンタメ業界へ就転職したい」と考える若者たちの夢をサポートするエンタテインメントビジネスコースは、エンタメビジネスのプロが講師を務める、リアルビジネスに即した人材育成プログラムを提供しています。
今回は、このコースで講師を務めるエイベックス・エンタテインメント株式会社・レーベル事業本部クリエイティヴグループの中前省吾さんに、自らの講義内容や生徒の印象、そして音楽業界の未来を担う若者たちへのメッセージを伺いました。

表層的な知識ではなく、僕なりの哲学や思想を伝える

まずは中前さんが現在、どのようなお仕事に携わっているのか教えてください。

レーベル事業本部クリエイティヴグループでゼネラルディレクターをしていまして、簡単に言うとクリエイティブ面での統括ですね。アーティストでは安室奈美恵の担当をしています。

アカデミーでの講師はいつ頃からやられているのですか?

8年前からです。

実際にどのような講義をされているのか教えてください。

生徒が知りたいことのニーズには合わせつつですが、音楽エンタテインメントの会社としてすべきことを、自分の人生で得たことを例にして伝えています。「音楽業界で働くにはこんな考え方が必要ですよ」というのを教えつつ、この哲学やマーケティングはどこへ行っても使えるとか、なるべく汎用性が利くような考え方を重視していますね。

そこが“プロの講師”ではなく“エンタメビジネスのプロ”が講師を務めるという、このアカデミーの特徴でありメリットなのかなと感じます。

表層的な知識を教えても、それって仕事を始めればすぐに誰でも覚えられることなんです。そうではない、僕が10年、15年とか経て得られた働く哲学とか思想みないなものを、できるだけ生徒の皆さんにはお伝えするようにしています。

実際にはどのような内容の講義を受け持っているのですか?

僕はA&R概論と音源制作、映像制作、宣伝という講義を受け持っています。この4つは僕らが実際にやっていることで、それを通して、僕らの仕事の流れをシュミレーションできるなと思ったんです。 やっぱり一番わかりやすいのは、実践に近い形でやってしまうことなんですよね。 それに一回やってフレームワークを作ってしまえば、それは他でも使うことができる。 授業ではまず僕が話すインプットの時間はありますが、その後はグループワークやアイデアソンなどを行います。 時々、僕から見てもすごいなと思うアイデアが出てきてビックリしますよ。

アカデミーに関わり始めた頃と今を比べて、入学してくる子たちの変化は感じますか?

僕らとしても勉強になるのは、生徒たちが旧態然としたレコード会社を目指しているわけではなくなってきているということ。例えばグッズをやりたいとか、ライヴをやりたいとかも増える一方ですし、彼らの方が音楽業界のことを見えているんでしょうね。 僕は、授業で真っ先に「誰でもできるから」と言うのですが、音楽に特化した限られた人の業界ではなくなってきていると思います。

中前省吾2

勉強は手段ではなく、学ぶことへの心の有り様を言う

中前さんの経験を講義で伝えることも多いと思うのですが、クリエイティブディレクターとして心掛けていることを教えてください。

そもそも、エイベックスにクリエイティブディレクターという役割はいなかったんですね。ただし今の音楽ビジネスというのは、必ずしもCDやライヴチケットを売るだけの時代ではなくなっています。 CDを作るために音楽を作っているわけではない。 エイベックスもかつてはレコード会社だったのが、総合エンタテインメント企業へと変わろうとしています。 その中で「僕らは何ができるの?」という問いに対して、「クリエイションができる」という部分が大事。 音楽業界の未来に向けて、映像やデザイン、プランニングを含めたクリエイティブな発想で、どんな社会貢献ができるか? それを開拓していくのが僕の役割です。

このお話がすでに“講義”のようですね。少し過去を振り返っていただきたいのですが、中前さんはどのような形でエイベックスに入社しましたか?

僕は、いわゆる高学歴ではありません。ただただ、バンドをやっていました。 そういう意味で、必ずしも学歴は必要ないと思います。 ただし、勉強はできなくてもよくて、音楽さえやっていればこの仕事はできるという意味でもありません。 僕は高校卒業後、バンドをやりながら就職しましたが、結局、バンドで飯は食えませんでした。 ただし、せめて音楽に携わる仕事がしたくて、当時は「大学に行かないとレコード会社に入れない」という先入観があったので、何とか大学に入り、新卒でエイベックスに入社しました。

中前さんが入社した当時も、エイベックスに入るのは相当な“狭き門”だったと思います。そこを突破するために取り組んだことはありましたか?

大学に入って、とにかく、よく勉強をしました。勉強というのは「教科書を読むのが勉強で、漫画を読むのは勉強じゃない」みたいになるとややこしくなってしまう。 勉強は本来、手段を指すのではなく、学ぶことへの心の有り様を言うものだと思います。 そうなるとこの世のほとんどのことが勉強。 いわゆる試験のための勉強もしましたが、楽しい勉強もたくさんしました。 バイトとかバンドとか、友達と真剣に遊んだり。

中前省吾3

誰も行かないような道を、ひとり歩くことを楽しめるか

アカデミーに入学する若者たちが、エンタテインメント業界でプロフェッショナルとして働くために必要なことは何でしょうか?

大事なのは、好きになること。好きになるというのは3段階あって、まずは好きになれそうなことを好きになればよくて、僕にとってはそれが音楽だったんです。 一方で、好きじゃないことをやっている時って何も好きになれなくて、“石の上にも三年”みたいなものが成立しなくなる。 僕も最初に就職した会社がそうでした。 でも音楽業界に入ってみると、昔よりキツイことはたくさんあったけれど、全然平気だった。 それが好きの第2段階で、何かをとんでもなく好きという芯があれば、例えば資料をひたすらコピーをするのもそんなに嫌じゃなくなってくるんです。 僕は今、いろいろ話す機会も増えたので社交的と思われるかもしれませんが、元々は本当に限られた人としか話さなかった。 でも今は人と関わることが大好き。 好きに汎用性が出てきます。

実は地味な仕事がたくさんあるというのは、華やかでクリエイティブな業界に憧れて入ってきた人が、まずぶつかる壁かもしれません。

そうですね。地味な仕事も、好きなことに繋がる起点であれば、ほとんどのことが、我慢というか楽しくなってくるんです。 逆に、本当にいらないものを瞬間的に判断できるようになります。 それが、好きの第3段階。 それはつまり、長いものに巻かれなくなるということ。 好きなことが無い人の一番悪いパターンは、流行モノばかりに流されて自分がないことです。 エイベックスのアカデミーに来る子たちの多くは、少なくとも「音楽」という好きなものがある。 大事なのは、それをどこまで好きになれるかだと思います。

最後にこれから入学してくる、もしくは入学を考えている子たちにメッセージをお願いします。

もちろん楽しい勉強ばかりを学べればそれに越したことはありませんが、キツイと感じる勉強もあるかもしれません。いずれも大切です。 例えば、“因数分解”って役に立たないと思うかもしれませんが、歌詞で“恋の因数分解”という言葉が出てきた時に、「恋に対して素数って何なんだ?」「割り切れない気持ちだから、嫉妬か?」という風に考えられる。 そのためには、因数分解の意味を知っていないといけないですよね。 いつか、役に立つかもしれないと思うと、何でも勉強になるはずです。 それを続けて行くと、同時にこれはしなくていいということも徐々に見えてきて、独自性が出てくる。 この世界には、実は“多くの人にとって良いことでも、自分だけにとっては良くないこと”というのが存在します。 いかに自分にとって本当に良いことに時間を使うかが大事。 それが多くの凡人にとって、スペシャリティを出す方法のような気がします。 道はもうあるんだけど、誰も行かないような道を、ひとり歩くことを楽しめるかどうか――それが独自の強みになるのかもしれません。

音楽の可能性をクリエイティブの力で探求している中前さん。その講義では、未来を担う若者たちの“血となり肉となる金言”がごろごろ転がっているのでしょう。 インタビューの最後で中前さんは、「積極性が手段になっているわけではなく、情熱で積極的になっちゃっている子が好きですね」と語っていました。 あなたに好きなものがあるのならば、アカデミーの門を叩き、その気持ちを中前さんという“探求者”にぶつけてみてはいかがでしょうか?

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